死んでも派遣で働くな 4 (キャリアアップにだまされない編)


 最近のいくつかの記事で申し上げたように、賃金が恣意的に決定されるとしたら、キャリアとは何を指すのでしょうか。

 結論から申し上げると、キャリアという言葉は何も意味しない、ということです。

 僕が初めてキャリアという言葉を知ったのは、多分、1980年代中頃でしたが、正直、全く関心がありませんでした。
 ところが、1985年に派遣法が成立し、アデコだのパソナだのの人材ビジネス業者がこの言葉を広告の随所にちりばめ始めたのは、多分、バブルのことだったと思います。
その後、文科省や厚労省サイトを見るとどちらも2000年前後から政策目標の中にキャリアという言葉が使われはじめ、今日では往事に比べると遙かに一般化し、市民権を得ているように思います。

 ところで、キャリアとは何でしょうか、試みに厚労省と文科省の法律や文書を探してみると以下の通りになります。
 厚労省の所管する職業能力開発促進法(以下「能開法」)では「この法律において「キャリアコンサルティング」とは、労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うことをいう。」(第2条第5項)と定義しており、職業安定法も能開法の定義を参照するような書きぶりとなっています。
 一方、文科省の学校教育法には古い法律のせいかキャリアという言葉は現れませんが、文科省のサイトで検索すると、キャリア教育の定義に言及する、以下のような記事が見つかりました。*
 「平成11年12月に公表された中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」では、「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」としている。

 これらを見ながらキャリアを腑分けしていくと、厚労省では、「職業選択+職業生活設計+職業能力開発(向上)」の3項目、また、文科省では「職業観+勤労観+職業的知識技能」の3項目と考えているようです。
 この6項目のうち、職業能力開発(向上)と職業的知識技能は一括りになりそうです。
 一方、文科省の言う「職業観」、「勤労観」は道徳教育の一環であっても、一人前の職業人には意味のない内容です。
 また、「職業選択」と「職業生活設計」は人生設計や生活設計を職業の視点から捉えた言い方であって、具体的な何かを指し示してはないと思います。
 つまり、キャリアという言葉の中身は、職業能力開発を除くと具体的ななにかを指し示してはいない、ということになります。

 にもかかわらず政府が政策的にキャリアコンサルティングやキャリア教育に取り組むのか。
 キャリア教育については児美川 孝一郎先生の「キャリア教育のウソ」という名著があるので、そちらを参照していただきたいのですが、後者についてはおそらく以下のような事情があるのではないか、と考えています。

 労働行政においては、長年にわたって職業能力開発という施策が行われて来ており、雇用失業情勢に応じて、そのサービス供給量を調整してきました。
 その調整に当たっては、民間の事業者の行う各種学校やセミナーなどを活用しており、それら事業者の中にはリーガルマインドのような教育事業と人材ビジネスの両方を展開している事業者も多数含まれていました。
 雇用失業情勢の厳しい間は、それら事業者はハローワークの送り込む受講生一人あたりナンボという国からの委託費で一定の利益を上げることが出来ていましたが、情勢が変化すれば、当然、委託事業そのものが減少することとなりますし、これら事業者も厳しい経営を迫られることになります。
 そこで、職業能力開発ではなく、キャリアコンサルティングの名目で国から事業委託を受けられるように官邸や永田町に働きかけを行った結果、労働政策の中にキャリアカウンセリングやジョブカードが大きな位置をしめるようになったのです。
 また、自民党政権復活後の平成27年(‘15年)の派遣法改正により派遣労働者の個人単位の派遣受け入れ機関制限を3年とする規制が新設されたことに伴う雇用不安の補償措置が必要とされ、派遣事業者にキャリアコンサルティングやキャリアアップ計画の策定が義務づけられたのです。
 しかし、上で考察したとおり、キャリアという言葉が何も意味せず、ただ、政治的な取引のための空手形でしかない以上、これらの政策に実際上の効果、例えば仕事を探している人や不安定雇用に苦しむ人の役立つという効果が期待できないのは当然のことです。

 しかし、派遣会社は「キャリアアップもプライベートも」弊社にお任せくださいというようなCMを流し続けています。

 だから、良い派遣会社に出会って、派遣で働けばキャリアアップが出来て、なにか良いことがあるのかもしれない、なんて勘違いをなさらないで欲しいのです。

 キャリアにはアップもダウンもありません、ただ、労働条件の善し悪しがあるだけであり、その改善を勝ち取るためには必要なのはあなたの孤独な努力や忍耐ではなく、働く者同士の連携協力なのです。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/attach/1404646.htm




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