「コミュニケーションの社会史 」 前川 和也 編著(ミネルヴァ書房2001/8/1)をオススメします


 多くの方に読んでいただきたい本なので、ここで簡単に紹介をさせていただきます。
 まず、収録論文は以下の通り。

Ⅰ 遠くに伝える
第1章 「初期メソポタミアの手紙と行政命令文」前川和也
第2章 「広域情報伝達システムの展開とトゥルン・ウント・タクシス家― 一六、一七世紀における帝国駅逓の拡充を中心に」渋谷聡
第3章 「メディアとしての聖地巡礼記―中世地中海世界の情報網」高田京比子
第4章 「地の果ての外交― 一六世紀のモルッカ諸島とポルトガル」合田昌史

Ⅱ 語りかける
第5章 「文字のかなたに―一五世紀フィレンツェの俗人筆録説教」大黒俊二
第6章 「「聖年」の誕生―「うわさ」の生み出したもの」山辺規子
第7章 「聖餐式と会衆歌」渡邊伸
第8章 「恋文と新聞のあいだ―近世ポーランド王権とニュース・メディア」小山哲
Ⅲ 語りあう
第9章 「農村の時間認識と歴史」森明子
第10章 「コミュニケーション過程としての啓蒙主義― 一八世紀末ドイツの読書協会」三成美保
第11章 「会話と議論― 一八世紀フランスにおける社交の衰退」富永茂樹
第12章 「ラテン語とドイツ語のはざまで― 生存闘争のなかの人文主義者」佐々木博光
Ⅳ 争う
第13章 「中・近世ドイツ農村社会の武装・暴力・秩序」服部良久
第14章 「名誉の喪失と回復―中世後期ドイツ都市の手工業者の場合」田中俊之

 まず、全体の構成が非常に良い。編者の力によるところ大、ということでしょう。
 最初のⅠでコミュニケーションのための物理的手段とインフラを検討しています。いわば、顕微鏡の視点から論述全体を出発させるので、読者はちょっと退屈するかもしれなせんが、待てしばし!
 次の、Ⅱでは様々な伝達の「行為」に注目し、視野が広がります。
 Ⅲでは、伝達を受けた対話の姿、そしてⅣではそれらを含めた社会制度全体を「暴力」の視点を視野に入れて描いています。
 この4部構成で、社会におけるコミュニケーションについて、段階的にズームアウトしながら、だんだん大きな視野に広がっていく流れは読者を引きつけてはなさない、見事な構成になっています。

 加えて、収録されている14本の論文も、興味深い内容も気づきと学びにあふれた、いずれも優劣つけがたい充実した労作ぞろいです。

 そのなかで、もっぱら私の興味関心からいくつかを紹介してみます。

 まず、11章でフランス革命に向けて世論形成の場となったサロンが革命後に崩壊して、民衆協会などの市民の手に移されたものの、暴力的な対立の場となって行ったという論考は、SNSにおける炎上などの今日の姿とオーヴァーラップするものがあって面白と思って読み進めると、実はその背後に、コミュニケーションからの女性排除を示唆しているところは慧眼。
 10章、12章もドイツにおける女性排除を描いているところも、実は構成の妙がある。
 そして、その前提を踏まえて、暴力がコミュニケーションに織り込まれ、武器が男のステータスとなっていた中世欧州の姿は、アメリカにおける銃社会の淵源を発見させると共に、市民が武装解除され、去勢された日本社会の静穏さが、政治的なアパシーやイジメの原因となっているのではないか、ということを考えさせてくれる内容となっています。

 また、2章、3章、8章は、国家や教会の権力が郵便制度や聖地巡礼というコミュニケーション・ツールを生み出し、拡大したという歴史的な経緯も、インターネットの成立と合わせ考えると歴史の反復を思わせて、考え込んでしまう内容でした。

 ちなみに、キリスト者の私としては、3章、5~7章などのキリスト教の歴史に関する論文もとても面白く読めました。

 アマゾンで見ると、まだ、新本を入手可能みたいですが、5,500円とお高いので、ぜひぜひ、急いで図書館に走って行ってお読みください。

コミュニケーションの社会史 (MINERVA西洋史ライブラリー)
コミュニケーションの社会史 (MINERVA西洋史ライブラリー)


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