嘘つき爺やの「ヨブ記」来歴記

 昔々、ユダヤの地のあるところに一つの街があったとな・・・

「いやぁ、皆の衆、おかげさまで我が町もだんだんと大きくなって、会堂も何カ所か出来たし、会堂ごとに町内会も出来て、毎年、町内会ごとのお祭りや我々、連合町内会の大きなお祭りも盛大に行えるようになってきた、本当にありがたいことぢゃ」

「まったくそのとおり。しかし、最近うちの町内の若い衆がな、連合町内会のお祭りは毎年、歌と踊りばっかりで退屈だとか、なんとか罰当たりなことを言うとって、困ったもんぢゃ」

「まぁ、そう頭ごなしに言わんでも・・・で、どうしたいと言うんぢゃね、その若い衆は」

「それがぢゃ、近頃はやりのお笑いみたいなものを・・・」

「そりゃぁ、いかん。いかんどころか、怪しからん。神さまの前でお笑いなんぞ!」

「だから言ってやったんじゃ、言うに事欠いてなんて言い草かって。そしたら、もう少しまともなネタを考えてきます・・・ぢゃと」

「ネタ?なんちゅう言い草ぢゃ!まったく近頃の若いもんときたら・・・」

 それから一月ほどたって・・・

「それじゃ、皆の衆、そろったようぢゃし、月例の打ち合わせを始めようと思うんじゃが・・・そっちの若い衆は誰が連れてきたんぢゃ?」

「わしぢゃ、わしが連れてきた。こないだ話したお笑いの若い衆ぢゃ。なんでも、まともなネタを考えてきたというので、ここで話をさせて、みんなで説教してやろうと思って連れてきた」

「まぁったく、もぉ・・・まぁいい、そこの若い衆、どんなネタか話してみい」

「はい、神さまの前でご披露するのにふさわしいものを考えました。まず、神さまの前に正しい人、例えば義人ヨブと呼びましょうか、この人が大きな災難にあって、そのことを嘆くんです、すると友達がやってきて彼を励ましながら悔い改めを奨めるんです。そして、最後に神さまが出てきて祝福を与えて下さる、というお話を考えたんですが」

「まぁ、そういう話ならまだしも、マトモぢゃな。まぁ、それで町内の若い衆が喜ぶなら考えてやっても良いが、しかし、神さま役を我々がやるのはいかがなものか・・・」

「だったら、普段から色々と口うるさい大祭司にお願いして、ご機嫌を取りむすぶ、ってのは、どうぢゃの」

「ほう、それは面白い、そこの若い衆、名前は?ヨブ?ぢゃなにか、お前は自分のことを義人ヨブって言ったのか?なんちゅう厚かましい奴ぢゃ!」

「まぁまぁ、たまには若い衆の提案も聞こうぢゃないか。よろしいヨブ、まず大祭司のところへ行ってお願いしてこい、そして来月、皆の衆に報告しなさい、皆の衆もそれで良いな!」

 ということでお祭りでお笑いならぬ、お芝居をすることが決まりまして、次の月。

「では、今月の議題は以上ぢゃが、おい、ヨブ、大祭司のところは行ってきたか、どういう返事ぢゃった?」

「はい、行ってきました。神さまの役をやって下さいとお願いしたら、大祭司様はことのほかお喜びで、必ず協力して下さると言うことでした。ただ、そうは言っても恐れ多いので、お面をかぶってやりたいと仰いました。」

「なるほど、それもごもっとも。だったら、他の役回りもお面をかぶった方が良さそうだな」

「はい、それでヨブの役はうちの町内にお任せいただきたいと・・・」

「うちの町内って、要するにお前がやりたいんだろう?」

「てへへ・・・で、友人の役はとなりの町内にお願いしてきました」

「手回しが良いな、まぁ、よろしい。後のことはお前に任せる。とにかく大祭司のメンツを潰さないように、お祭りでは大評判をとるんだぞ!」

 と言うわけで、お芝居の準備は着々と進み、お祭りの当日は若い人を中心に拍手喝采、ぜひ毎年やって欲しいという声が連合町内会に続々と寄せられることとなりました。

 そんなことで、毎年、台詞回しやお面のデザインなどを少しずつ改良しながら、お芝居は続けられていきましたが・・・

「さて、皆の衆、今年もそろそろお祭りの準備の季節になってきた。今年も例年通りに行いたいと思っておるんぢゃが・・・」

「それがぢゃ、そうもいかんのぢゃ。ここ数年で新たに出来た会堂と町内会から、自分たちもお芝居に出して欲しい、という要望が出ているんぢゃ」

「ほう、なるほど。だったら、主人公ヨブの友人を増やせば良い。答える方のヨブの役も新しい町内会にお願いして、もし、今後、町内会が増えるようなら、友人を増やしたり、やりとりの回数を増やして、やって貰えば良い」

「だって、友人を増やすのはともかく、主人公が入れ替わるというのは、変ぢゃないか」

「何を言っている。仮面をつけているから人が変わったなんて分からんぢゃないか」

「あっ、なるほど、上手いこと考えるもんぢゃのぅ」

 というわけで、毎年のお芝居はますます大規模に、また、賑々しく行われるようになっていったのですが・・・・

「いやぁ、今年のお芝居はまた、一段と見物が多かったなぁ」

「しかし、参加する町内会が増えた分、時間が長くなってしまって、なかなか辛いものがあるのぅ」

「年のせいがトイレが近くなってきたし・・・」

「出店の連中からはお芝居の間は客足が途切れてしまって商売にならんとか、文句言われるし・・・」

「そうぢゃ、主人公の最後の台詞の前に休憩を入れよう。そして、休憩の後には、あの目立ちたがりで厚かましい若い衆に何か、前口上のようなものをやらせてはどうぢゃろう」

「うん、良い考えぢゃ。だとすると、休憩の前を担当する町内会にはせいぜい、雰囲気を盛り上げてもらわないとな・・・」

 ということで、連合町内会のお芝居は2幕ものとしての形式が整い、出店の皆さんからも、トイレの近いお年寄りからも文句も出なくなって、ますます、盛大に催されるようになって何年かがたちました。

 そして、あの目立ちたがりで厚かましい若い衆も連合町内会の重鎮に収まるようになったある年のこと。

「さて、皆の衆、お集まりかな?我々のお祭りのお芝居も、気がついたら何十年も盛大に続けてくることが出来た。最初はワシの思いつきだったが、街が平和で大きくなるについて、加盟町内会も増えてきたし、その力を結集して、今や近隣近在から沢山の見物が集まるようになった。また、セリフ回しも大祭司に褒められるようになったし、遠い街からセリフを覚えに尋ねてくる若い衆も現れるようになった。本当に神さまの恵みには感謝ぢゃ」

「まったくもってアンタの言うとおりぢゃ。そこで思いついたんぢゃが、ここは一つ、皆で少しずつ蓄えを出し合って、書記を雇ってお芝居を書き残して貰ってはどうぢゃろう」

「書き残して貰ってどうするんぢゃ。我々の中で字の読めるものなど誰もおらんぞ」

「わかっとる。そうぢゃなくて、神さまへの感謝の捧げ物として神殿に奉納するのぢゃ」

「ほう、それはいい、そうしよう・・・」

 ということで、今日、私たちの手元にヨブ記が残されることになったんぢゃ、と嘘つき爺やが言ってました、とさ。



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