死んでも派遣で働くな 3 (”Signed, Sealed, Delivered”編)


"Signed, Sealed, Delivered I'm Yours"といえばスティーヴィー・ワンダーのヒット曲。

 署名も済んで、梱包されて、届けられました、さぁ、私を受け取って!というラヴソングで、たしかに恋人同士なら素敵なお話だと思います。

 しかし、好きでもない人のところに、宅配便みたいに伝票をつけられて送り届けられる、としたら普通はこちらから願い下げ、ということになるでしょう。

 ところで、2017年12月の労働力調査では、雇用者に占める派遣労働者は1.4%(注1)で、近年はだいたい1~2%台で推移しています。

しかし、行政機関や労働組合などで労働相談に応じている人たちに尋ねれば派遣労働者からの相談はもっともっと多い、といういうはずです。

 たとえば、各地方労働局が窓口となって行われている個別労働紛争調整の状況を見ると派遣労働者からの相談が全体の4~6%を占めています(注2)。

 また、平成28年度に東京都の産業労働局の行った労働相談のうち、派遣労働者からの相談は6.3%と示されています(注3)。

 おそらく実際に相談に従事している実感からは、それでも低すぎという印象だろうと思いますが、いずれにしても、派遣労働は他に比べて問題が多いということは以上の数字から明らかです。

 その原因は、色々あると思いますが、最も本質的で、しかし、統計には乗りにくい原因があると思っています。

それは、冒頭にお示ししたように、ひとりの「人間」が自分でテクテク歩く「商品」として梱包されて職場に入っていき、そのまま商品扱いが続くという働き方そのものに原因があるのです。

 労働者が労働力という「商品」として扱われるときに何が起きるかを考えてみて下さい。

 一つには、職場に改善提案をしても聞いてもらえません。「商品」だから黙って与えられた仕事をすることしか期待されていないからです。また、派遣契約にない仕事をすることは、契約違反になってしまいます。

 二つには、職場に問題があって、改善を求めても聞いてもらえません。「商品」だから、壊れたら新しいものをオーダーすれば良いからです。

 三つには、仕事を通じた職業人としての成長が生じません。「商品」なので性能が変化しては困るからです。

 そして、どうやら最大の問題は、「商品」である以上、目に見えないけれど、誰にも破ることの出来ない「包装紙」が存在し続けるということであり、人間としての息づかいが、やがて包装紙の中で窒息し始めると言うことです。

 労働者に家族や友達がいれば、その人たちとともに過ごす時間は、包装紙から解放されているので息が出来るのでしょうが、もし、一人ぼっちで暮らしていたら、やがて本当に、その人の中の「人間」は窒息してしまうでしょう。

 さて、人間性が窒息し、ただの「商品」として何年も暮らしているうちに、なにが起こるでしょうか。

実は、ここからが最大の問題なのですが、「商品」は変化すること、成長することを期待されないので、彼ら「商品」はもっぱら現状維持を求められるし、将来に対する保障も設計もない職業人生を歩むことになります。

派遣法では、派遣元にキャリアアップ措置を講ずるよう定めており、また、派遣先には、派遣元からの求めに応じて必要な協力をするように定めています。

しかし、こんな定めは人材派遣協会と厚生労働省が結託した虚構に過ぎません。

なぜなら、職業人として成長、つまりキャリアアップは職場の上司や同僚の努力と協力が必要であり、それぞれの成長段階にあわせた指導が必要なるはずですが、派遣先はそもそも「商品」としてその人を必要としているのであり、自分たちの仲間、場合によっては後継者の候補者として受け入れている訳ではないからです。

もっと端的に言えば、最初から育てる前提ではなく、都合良く使い捨てることが出来るからこそ派遣労働者を受け入れているのです。

 そのような虚構の囚われ人として長く人生を送った労働者は、やがて自ら仕事を探す意欲や元気もなくなって、派遣会社の斡旋する仕事にすがって生きていくようになり、派遣会社から見捨てられてしまうと、彼らは途方に暮れてしまうのです。

 そして、そうした人たちからの電話が労働相談の窓口に一定数寄せられるわけですが、労働法の専門家たちとしては、生活保護の受給をお奨めするくらいの処方箋しかお示しできないし、統計上は「その他」という区分に沈んでいく、ということになります(注4)。

 そのような人たちの最も極端な、しかし典型的な姿を描いたのがA.カミュの「異邦人」だと、私は最近、やっと気がつきました。

 そして、もう一つの典型例は、秋葉原の人混みでトラックを暴走させた犯人だと思います。

 労働者派遣制度は一日も早く、再び禁止の対象とすべきであることが、以上を通じてお分かりいただけたでしょうか(注5)。


(注1)
ちなみに、ちょうど1年前の2016年12月では2.3%でした。
     ‘17/12 ‘16/12(単位:万人)
雇用者  5863   5443
派遣社員  130    126

(注2)
平成29年6月16日付けの厚生労働省発表資料「平成28年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000167799.pdf


(注3)
東京都産業労働局のサイト内資料「平成28年東京都の労働相談の状況」
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/koyou/soudan/h28/

(注4)
労働相談を行っている窓口の統計に「生活困窮」という項目を追加することを検討すべきかもしれません。

(注5)
 すべての派遣労働者が苦情や困難を抱えているわけではない以上、一定の範囲で派遣制度が容認されるべきだという意見もあると思いますが、現実には、政策立案過程に広範な派遣労働者の声が反映されない(そして最終的には国会で強行採決により可決してしまう)仕組みになっている以上、「一定の範囲」を民主的な手続きによって限ることは不可能であり、それゆえ派遣制度そのものを廃止すべきであると主張しているのです。

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